糖尿病の薬物療法について

 生活習慣の改善や、食事・運動療法を十分試みてもなかなか血糖コントロールが改善しない場合には、インスリンによる注射や飲み薬による治療が必要になります。いろいろな種類がありますので、患者さんひとりひとりに適切な方法を用いることになります。

 

インスリン: 強い高血糖やインスリンが絶対に必要な患者さん(いわゆる1型糖尿病)では、インスリン注射が必要になります。インスリンにも急速に作用するものと、ゆっくりと長く作用する種類がありますので、状態に合わせて注射することになります。

GLP-1製剤:食事したときに胃の運動を抑え、腸からインスリン分泌を促し血糖を高めないようにする働きのある腸ホルモンですが、その作用を強める注射薬(最近飲み薬もでてきました)です。朝1回あるいは週に1回の注射をします。体重増加を抑えたり、心臓などにもよく作用することがわかってきました。最近使用可能となったものでは、血糖抑制とともに強い体重減少をもたらすものもあります。

 

飲み薬:いろいろな種類がありますが、インスリン作用を高めるお薬や、インスリンがすい臓から分泌するされるのを助けてあげる薬などあります。

ビグアナイド薬(メトフォルミン):肝臓や筋肉での糖の利用を助ける作用があります。アメリカ人の糖尿病患者では最もよく使われている薬です。

SGLT2阻害薬:血中の糖を腎臓から再吸収させないように作用する薬で、たくさんの尿とともに血糖を排泄させ血糖を正常値に近づける作用があります。尿排泄が多くなることから、膀胱炎、外陰部感染症など起こりやすくなりますので、注意が必要です。また、夏場ですと水分補給を十分にする必要もあります。最近のデータでは、体重減少とともに心筋梗塞、狭心症などのリスクが減少することも報告されています。

DPP-IV阻害薬:食事をとりますと消化管からGLP-1が分泌され、このGLP-1はは膵臓からのインスリン分泌を促し、血糖を調節します。GLP-1を分解する酵素がDPP-IVです。ですから、DPP-IV阻害薬は血中のGLP-1濃度を高め、血糖を下げます。DPP-IV阻害薬は膵臓でのインスリン分泌細胞を強化する作用も報告されています。

αグルコシダーゼ阻害薬:糖尿病では食事に合わせたインスリン分泌が少なく食後の血糖が上昇します。食べた糖質が消化管からすぐに吸収されないでゆっくり吸収されると食後の血糖上昇は低くなります。αグルコシダーゼ阻害薬はその吸収を阻害する薬です。ですから食後血糖の上昇を抑え、糖尿病をよくします。ただ、食物の吸収が抑えられるため、腸管内にガスがたまっておならが多く出たりしますが、体に悪影響はありません。

急速インスリン分泌促進薬:食事に応じたインスリン分泌が少ないのが糖尿病の特徴ですが、インスリン分泌促進薬は食事に合わせた分のインスリン分泌を助けてあげる薬です。作用は短時間ですが、薬を飲んで食事をとらないと低血糖になりますので注意が必要です。

インスリン抵抗性改善薬:肝臓や筋肉では多くの糖がインスリンの作用によってエネルギーとして消費されます。しかし、これらの臓器でインスリンが作用しづらい場合、糖が消費されませんので血糖は高くなります。インスリン抵抗性改善薬は組織での糖の消費を高めます。この薬は体重を増やしたりしますので注意が必要です。

ミトコンドリア賦活薬:細胞のなかのエネルギーを増やし、インスリン分泌を改善、ストレスなども抑え、合併症の進展を抑えることが期待されます。

患者さんひとりひとりの状態に合わせた薬を用いて治療が進められます。